微睡み
2014/11/13
一体どれくらい寝たのだろう... 左手を動かして腕時計を見る元気すらない。相変わらず熱が下がらず体は熱い。定期的に出る咳で腹筋はボロボロ... 鼻が詰まって口呼吸しか出来ず喉はカラカラ。ああ... ゲータレード、ゲータレード...
起き上がることもままならず体を傾けるのが限界。力を振り絞ってゲータレードに手を伸ばす。口の横からボタボタとこぼしながら命の水を補給する。白い天井を見上げながら今の状況に耐える。たまに聞こえる日本人グループの日本語。宿では階段を軽快に駆け上がる足音。相変わらず宇宙語のスペイン語。
ああ、辛い。どうしてこんな目に... 日頃の行い、そんなに悪いかな?ただ旅をしてるだけなのに。日本を出発してから1か月ちょい。まさか風邪でダウンするとは思わなかった。アメリカの寒暖差でも何ともなかったし... カンクン空港の強烈な冷房でも何ともなかったのに。
やっぱりあれか、標高か?高山病ならまだしも、風邪... しかも世界一来たかった場所で。俺の体はこんなにも弱かったっけ... 日本じゃ風邪なんて滅多に引かないのに。勝手に蝕みやがるウイルスめ。早く体から出て行け、出て行け...
出て行け...
一体どれくらい寝たのだろう... 今が昼なのか夜なのかさえわからない。相変わらず熱が下がらず体は熱い。定期的に出る咳で腹筋はボロボロ... 鼻が詰まって口呼吸しか出来ず喉はカラカラ。ああ... ゲータレード、ゲータレード...
起き上がることもままならず体を傾けるのが限界。力を振り絞ってゲータレードに手を伸ばす。
手を伸ばす...
手を伸ば...
?!
命の水がない!
誰だ勝手に飲んだやつは...
あれがないと生きて行けない。
はぁ... はぁ... 喉が痛い。
とりあえず濡れマスクで喉を潤そう。
すーーーーー
はーーーーー
すーーーー
はーーーー
すーーー
っはーー
すーー
っっは
すー
っっ...
ぶはぁぁぁ、ぜぇぜぇぜぇぜぇ...
標高が高すぎてマスク1枚が命取り。上手く呼吸をすることが出来ない。息をするのってこんなに難しかったっけ?やっぱり今一番必要なのはゲータレードだ。これは余力を振り絞って命の水を買いに行くしかない。
命懸けで。
呼吸を整え自分の体に問う。宿の向かいのミニマーケットまで行けるか?そこで命の水を手に入れて戻ってくることが出来るのか?行けると判断したタイミングで起き上がる。起き上がった方向に倒れそうになるも壁に寄り掛かりそれを阻止。しばらく体調を整えてから靴を履き部屋のドアを開ける。
宿を出ると眩しくて目が開けられない。どうやら昼間のようだ。フラフラした足取りでミニマーケットへ向かう。右手にはクシャクシャに握りしめられた20ボリビアーノ札。左手で命の水を抱え込むように持ち、お金を渡す。途中のベンチで休んだら終わり... 自分にそう言い聞かせ必死で部屋まで戻る。
2階にある部屋までの階段が地獄だ。でもここさえクリアすればいくらでも寝れる。手すりにつかまりながら一歩一歩... そしてドアの前でポケットから鍵を取り出す。部屋に入ると同時にベッドに倒れ込む。鍵なんてその辺に放っておけばいい。俺はやったぞ、俺はやったぞ。ゲータレードを口に含み達成感に酔いしれる...
しかし、辛い。
とりあえず寝よう、寝よう...
寝よう...
気付くとそこには心地よい風が吹いていた。その風に吹かれて体に何かが当たる。
花だ。
チューリップ、ひまわり、ラベンダー、コスモス... それに俺が大好きな百合の花も。季節を問わず色んな花がそこら中に咲き乱れていた。百花繚乱。こんなことがあり得るのだろうか?夢かうつつか幻か...
花に気を取られていると遠くから水の流れる音が聞こえてきた。そっちの方向へ向かうと徐々にその音が大きくなってくる。近づくにつれどうやら川が流れているのだとわかる。
綺麗な川だ... 透き通った透明な水。これはまさに命の水じゃないか。手で汲んで飲んでみる... う、美味い。喉の乾きを潤すようにガブガブと飲む。一心不乱に水を飲んだ。息をするのも忘れてしまうくらい。この川の水全てを飲み干すような勢いで。
ぷはーっ、生き返る。落ち着いてふと顔を上げてみる。すると信じられない光景が...
て、輝義...
じ、じいちゃん?!
...
まさか、ここは...
三途の川??!!
っというようなことは特になく... 要するに命に関わる問題じゃないってことだ。そう思うと不思議とどこからか力が湧いてくるような気がした。そういやじいちゃんはよくウンコを漏らしてたな... 大人用のオムツを履かされて気の毒だなって思ってた。そう思うと下半身の内側から外に何かが出そうな気配を感じた。
ウンコ... ウンコか?!そういやウユニに着いてから一度も出していない。便が出てなくてそれが何らかの影響を与えて発熱が起きてるんだとしたら... これは出すしかない。きっとそうだ、ウンコが原因なんだ。諸悪の根源は貴様だな。
ひとつ突破口を見つけるとそれしか考えられなくなる。ウンコ... ウンコ... もう捻り出すことしか頭にない。呼吸を整え自分の体に問う。部屋の隣にあるトイレまで行けるか?そこでウンコを捻り出して戻ってくることが出来るのか?
行けると判断したタイミングで起き上がる。起き上がった方向に倒れそうになるも壁に寄り掛かりそれを阻止。しばらく体調を整えてから靴を履き部屋のドアを開ける。
幸い誰も入っていなかった。
ズボンを下ろし便器に座る...
つ、冷たい。
しかしその冷たさがさらに便意を誘う。ウユニに来てからまともなものを食べていない。元気になったら美味しいものを食べよう... そんなことを考えながらケツに力を入れる。ウンコ... ウンコ... もう捻り出すことしか頭にない。腸に溜まった発熱の原因を全て出し切ってやる。
うぉぉぉぉぉーーーー
で、出た( 照 )
出たけど... 肛門からもオシッコって出るんだっけ?そんな内容。咳でボロボロになった腹筋を酷使して全て出す。とりあえず出せるものは全て出して楽になる。
どれくらいの時間を戦ったのだろうか... もう便意は全くない。俺はやったぞ、俺はやったぞ。
諸悪の根源であるウンコを全て出し切った。あとはベッドに横になり体が回復するのを待つのみだ。トイレットペーパーでケツを拭きズボンを上げブツを流す。そして手を洗って部屋に戻る。なーに、簡単なことだ。今の俺にはそれくらいの体力も気力もある。
まずはトイレットペーパ...
?!
トイレットペーパーがない!
南米ではよくあること。ウンコを捻り出すことしか頭になくて気付かなかった... このままズボンを上げて何事もなかったようにベッドに横になるのか?
いや...
その状態で横になることを考えたら、それだけは避けたい。ふと視線を横に向けるとそこにはシャワー。これも南米でよくあるスタイル。大体トイレとシャワーが一緒になっている。熱で朦朧とした状態でも頭は冷静さを失っていない。かくなる上は...
綺麗になったケツをしばらく乾燥させズボンを上げる。ブツを流し手を洗い部屋のドアノブに手をやる。あ、あれ... 左まわしだったっけな... ん?右まわしだっけな...
?!
ドアが開かない( 涙 )
風邪を引いてても無意識に鍵を閉めるあたり... それはそれでいいことなんだけど今はやっちゃダメ!トイレで疲弊した体を引きずり階下にあるレセプションへ...
鍵を部屋に置いたまま閉めちゃったんですけど、どうすればいいですか?こんな長い文章、自分の英語力では説明することなんて出来ず... キー、イン、マイルーム、ロック、ノットオープン。こんななぞなぞ英語とジェスチャーでどうにか伝えてみる。するとレセプションのお姉さんはオッケーとあっさり伝わったみたい。
マスターキーを持ったお姉さんと一緒に部屋へ。手すりにつかまりながら一歩一歩階段を上る... はぁはぁぜぇぜぇしながら部屋の前へ。するとお姉さん、鍵を開けてから... 貴方ちょっと様子がおかしいみたいけど大丈夫?と。満面の笑みでノープロブレムと親指を立てて返事をすると苦笑いをされた。
部屋に入ると同時にベッドに倒れ込む。鍵なんてその辺に放っておけばいい。俺はやったぞ、俺はやったぞ。ゲータレードを口に含み達成感に酔いしれる...
しかし、辛い。
とりあえず寝よう、寝よう...
寝よう...
そしてまた微睡みの中へ...
関連記事
-
ボリビアのサンタ・クルスからパラグアイのアスンシオンへバス移動
ああああああ、暑い暑い暑い暑い!!バスの中で汗だくで起きる。カーテンを開けるとそ ...
-
世界で一番行きたかった場所、ウユニ
この旅の最大の目的のひとつ、ウユニ塩湖。それを見にまずはウユニの街へと向かう。昨 ...
-
ウユニ塩湖に映った星空が見たい...まだ見ぬ絶景、鏡張りの宇宙へ
26日昼と夜のツアー予定日 ウユニ1日目の朝、風邪の症状が酷い。体を休ませるため ...
-
本日よりボリビア編がスタート!プーノからラ・パスへバス移動
昨夜22時にクスコを出発したバスは朝の4時50分にプーノへ到着。標高はさらに高く ...
-
ウユニからパラグアイを目指してバスの旅、今日はどこまで行けるか?
気付けば10日間も滞在していたウユニ。そのわりに3回しか塩湖ツアーには出かけてい ...
-
列車の墓場、サボテンの島、そして鏡張りのウユニ塩湖
新月ツアーのあと体に限界が来たらしく珍しく寝込んでしまった。起きても何も出来ずに ...
-
塩のホテルに泊まってみた、ルナサラダはこんなところ
昨日と同様に起きると喉が痛い。夜は鼻が詰まって口呼吸になるから喉が乾く... こ ...
-
ウユニ塩湖を目の前にして、まさかの...
万全を期してウユニ塩湖ツアーに臨む予定が... 朝起きると喉が痛い。 そして鼻水 ...
-
せっかくラ・パスに来たんだから、街を歩いて迷子になってみた
ラ・パスはボリビアの事実上の首都となる。首都としては世界一高い場所にあってすり鉢 ...
-
スクレからサンタ・クルスへバス移動、厳つい兄ちゃんに絡まれるの巻
昨日は吐いたあと、いつの間にか寝てしまったらしい。朝は自然と起きて、時計を見ると ...